2023年度_金融財政事情研究会 通信講座_総合ガイド
128/148

問 B支店では、悪い情報が役席や支店長まで上がってこない状況に陥っていると思われる。このような状況を改善するために、あなたならどのような手を打つか。佐藤支店長になったつもりで答えなさい。126【ポイント解説】〔設例〕 A銀行B支店は中心市街地に所在する総員22名(うちパート4名)の中規模店である。佐藤支店長は、どちらかというと内部営業型というよりも渉外型の支店長であり、前任店では最優秀業績賞を受けるほどの営業成果を上げ、今春の定例異動でB支店に着任した。 着任以来2カ月、佐藤支店長は前任店と同じように「営業第一」を掲げ、陣頭指揮を執って融資案件の発掘、取引先の深耕に取り組んでいたが、最近、悩んでいることがある。 前任店は総員13名(うちパート2名)の小規模店だったこともあり、部下全員が、自分の指示や命令に、それこそ「阿吽の呼吸」で応じてくれたが、行員数の多いB支店ではそうはいかない。 内部係、渉外係、融資係にそれぞれ役席(課長と係長)を配置しているが、その役席も営業を前面に出した支店運営に気後れしているのか、一般的な報告はあるが、特に仕事のうえでの相談も意見具申もない。言い換えれば「心地よい報告」しか上がってこないのだ。また、指示を出しても動きが鈍く、経過報告や結果報告もこちらが聞くまで上がってこない。 一般行員には「相談事や心配事があれば何でも気軽に言ってくれ」と折に触れて声掛けしているが、みんな緊張しているのか、自分から話し掛けてくる行員は一人もいなかった。 一事が万事こういう具合であり、佐藤支店長は、前任店では味わったことのない「もどかしさ」を感じていた。そんなある日、佐藤支店長が優良取引先のS社を訪問した折、帰り間際に経理部長から呼び止められ、小声で次のようなことを言われた。「支店長に直接申し上げるのも心苦しいのですが、当社担当の渡辺さん、何とかなりませんか」。部長の奥歯に物の挟まったような言い方に、思わず支店長は顔を寄せて問い直したところ、「前の担当の森永係長さんは毎日、午前中の決まった時間に来てくれていたので、こちらも入出金や税金の払込みなど細々したことをお願いできて重宝していたのですが、今度の渡辺さんは、時間にルーズというか、約束を守らないというか…。中には一度も顔を見せない日もあって困っています。渉外係の中村課長さんにも、何度か相談したのですが…。支店内の人事に口を挟むようで心苦しいのですが、前の担当の森永係長さんに替えていただけませんか?」 S社は当店一番の大口与信先であり、他行との競合も激しい先なので、渉外係を1名、専担者として張り付けている。佐藤支店長は帰店後、中村課長を支店長席に呼んで事情を聞くと「確かに経理部長からそのような要望はあったのですが、森永係長は既存先の深耕や新規開拓を担当していて、近頃やっと成果が出始めたばかりなので、担当替えは無理です。私の方から渡辺行員に訪問時間を守るよう注意しておきます」といった。「いや、私が言っているのはそういうことではない。なぜ、S社の経理部長から苦情めいた要望があったことを報告しなかったんだ」。支店長が語気を強めて言うと、中村課長は一瞬顔を曇らせてから「失礼しました」といって深々と頭を下げた。しかし佐藤支店長には、中村課長が叱責に納得しているようには見えなかった。 翌朝、支店が開店するのを待っていたように支店長席の電話が鳴った。 佐藤支店長が着任してから、あまり間がないということもあり、B支店の状況は「コミュニケーションがうまく取れていない一時的なもの」という捉え方もできるが、設例のように、苦情や事務ミス・トラブルの報告が迅速に支店長席まで上がってこないのは大きな問題である。報告がなければ適切な対応は難しい。また、迅速に対応していれば少ない労力と時間で容易に解決できた問題も、時間が経てば経つほど解決が難しくなることが多い。B支店では、次の点に留意して体制整備を早急に行うべきである。1.情報を提供する際のポイント 情報を提供する際のポイントとして、下記があげられる。 ① 正確な情報を提供する。 ② 迅速に提供する。 ③ 主観を交えず、事実を報告する。 ④ 悪い報告ほど早く伝える。 特に苦情や事務ミス・トラブルなど自分の担当に関する事項は、上司や支店長に報告するのは気が重いものである。常日頃から担当者に対して「事務ミスやトラブル、苦情・クレームについては、報告すべきか否か迷う前に、まず役席(中間管理者)に報告すること」を徹底すべきである。また、役席自身も報告遅延がもたらす最悪の事態を想定し、努めて迅速な報告を心がけるべきである。佐藤支店長が受話器を取ると、相手は本部のお客様相談室長で、電話内容は次のようなものであった。・昨日の夕刻、(株)K電気工事の社長と名乗る人物から電話があった。・「先月末に貴店融資係の吉田さんに運転資金の相談に行った。試算表の提出を依頼され、2週間前に提出したが、あれから何の連絡もない。明後日の月末には必要な資金なのに、いったいどういうつもりなのか。不誠実にもほどがある」という内容だった。 話し終えると室長は、「支店長はこの件についてご存じでしたか?」と問いかけた。K電気工事の名前さえ覚えていなかった支店長は、正直に「知らなかった」と答えた。すると室長は「支店長もご存じの通り、金融円滑化の観点からも、このような対応は極めて不適切と言わざるをえません。相手は相当に立腹していたので、場合によっては当局に苦情内容を申し立てることも考えられます。至急対応してください」と言って電話を切った。 融資係の三浦課長を支店長席に呼んで事情を聞くと「K電気工事ですか?」とつぶやくように言ってから「いえ、私は聞いていませんが…」と言って首をかしげた。融資窓口担当の吉田行員を呼んで確かめたところ「確かに相談は受けましたが、試算表の提出を受けた際に資金繰表も提出するよう依頼しました。資金繰表を受領してから稟議書を作成するつもりでした」との回答だった。「この件は融資支援システムの案件欄に登録しているのか」と三浦課長が問い質したところ「いえ、まだ案件として成立していないので登録していません」との答えだった。佐藤支店長は三浦課長に、至急K電気工事を訪問するように命じた。 その日の業務終了後、内部営業係の吉野課長が宇野行員を引き連れて支店長席にやってきた。「支店長、ご報告があります」そう切り出すと、吉野課長は次のように言った。・昨日、テラーの宇野行員は、N氏という方から10万円の普通預金入金と3万円の税金の払込みを受け付けた。・業務終了後、N氏から「宇野行員に税金の領収書をもらっていない」との電話があったが、宇野行員には、通帳と一緒に領収書も返した記憶があったので「お返ししました」と答えて電話を切った。・今日の午後、再度N氏から「絶対にもらっていない。探してほしい」との電話があったので、改めて昨日の営業ゴミの袋の中を探したところ、領収書が見つかった。今から宇野行員と一緒にN氏の自宅に行って謝りたい。 吉野課長の報告を聞き終えた佐藤支店長は、真っ赤な顔をして「なぜ、問い合わせのあった昨日のうちに徹底して探さなかったんだ。ゴミ箱を探していれば見つかったはずだろう」と言って吉野課長の管理不足を責め立てた。2.報告を受ける際のポイント 報告を受ける際のポイントとして、下記があげられる。 ① 報告に対してすぐに反応を示す。 ② 悪い報告を持ってきた部下を責めない。 ③ 報告者に情報処理結果をフィードバックする。 ④ 報告のルールを明確にする。 特に苦情や事務ミス・トラブルなどの「悪い報告」に対しては、極力「冷静に」対応し、報告者を感情にまかせて叱責しないよう注意する必要がある。「報告したら叱られる」と思えば、部下は報告を躊躇する。報告遅延により対応が後手に回ることを考えれば、たとえ苦情や事務ミス・トラブルの責任が報告者にあるとしても、迅速に報告してくれれば、それは褒めるべきである。(54~58ページ)添削課題例模範解答例

元のページ  ../index.html#128

このブックを見る